今回はアンデシュ・ハンセン著『スマホ脳』を紹介します。
デジタル化が進む現代、みなさんはスマホを使いこなせていますか?
使いこなせていると思っていても、もしかすると現代人はスマホに支配されているのかもしれません。
なぜそう言えるのか。
まずは、あまりにも現代に不向きな脳の仕組みから見ていきましょう。
目次
脳はデジタル社会に適応するようにできていない
私たちの種が東アフリカに出現して以来、20万年の長い時間をかけて進化してきました。
進化の目的は全て『生き延びて、遺伝子を残す』ため。
人類においてそれは容姿の変化よりも脳の発達で行われてきました。
脳は感情を左右することで生き延びて行く術を編み出してきたのです。
例えば、恐怖を感じた瞬間に、脳はコルチゾールとアドレナリンを放出する指令を出します。心臓が早く打ち始め、筋肉に血流が送り出される。
逃げるにしても戦うにしても最大限に力を発揮できるように。
そんな生き残るための仕組みが現代の社会全てに当てはまるとは言えません。
他の生き物や同じ人類に命を狙われることがほとんどなくなった現代に脳はいまだ進化という形で対応できていないのです。
ましてやほんの数十年で爆発的に発展したデジタル化に脳は完全に翻弄されているのです。
スマホは私たちの最新のドラッグ
脳内の伝達物質、ドーパミン。
ドーパミンの最も重要な役割の1つは、何に集中するかを選択させることです。
例えば、お腹が空いている時にテーブルに食べ物が出てきたら食べるように選択させます。
こういった脳の報酬システムは、長い年月をかけて生き延びて遺伝子を残せるように人間を突き動かしてきたのです。
さらに、ドーパミンは新しいことを学ぶともっと学びたいと思わせるように作用します。
過酷な環境の中、周囲の動物の存在や天候を知ることは生き残れるかどうかに大きく影響していたのは間違いありません。
その新しいものへの要求は現代ではパソコンやスマホが運んでくる、新しい知識や情報への要求となっています。
パソコンやスマホのページをめくるごとに、脳がドーパミンを放出し、その結果、私たちはクリックが大好きになります。
そんな脳の報酬システムが最も激しく作用するのが「かもしれない」という期待。
これも大昔は、かもしれないという不確定な要素が生死を左右していたことを考えれば当然のことです。
負けても次は勝てる「かもしれない」ギャンブルに依存してしまうのもこれが深く関係しています。
では、スマホはどうか。
SNSを運営する企業の多くは、行動科学や脳科学の専門家を雇っています。
彼らは、人間の報酬システムを詳しく研究し、私たちの報酬系が最高潮に煽られる瞬間を知っています。
投稿した写真に「たまに」いいねがすぐに反映されない。
いいねがついたのに「たまに」通知がくるのが遅い。
これはアプリの不具合ではありません。
常にSNSへ注意を向けさせる『かもしれない』の策略と言えます。
バカになっていく子供たち
前述したような本能に任せた衝動的な行動を取らせる機能に対しブレーキをかける機能も脳には備わっています。
しかしながら、その機能を担う前頭葉は最も成熟が遅いことで知られています。
25〜30歳になるまでは完全には発達しません。
つまり、目の前にポテトチップスを置かれた子供には、全部食べてはいけないというブレーキは効かず、全部食べてしまえと脳が叫ぶのです。
これはスマホでも同じことが言え、前頭葉が未発達なことからデジタルなテクノロジーをさらに魅力的なものにしてしまっているのです。
ではスマホが与える子供への影響とは具体的にどういったものなのでしょうか。
本書で指摘している内容をまとめると、
- 2〜3歳へのタブレット学習は発達が遅れる可能性もある
- 報酬を先延ばしにできず、辛抱強く続けることが難しくなる
- スマホが目に入るだけで学習効率が下がる
- 睡眠障害を来す若者が急増する
- スクリーンタイムが長くなるにつれ精神疾患になりやすくなる
- 学校でスマホを禁止した場合1年間で1週間長く学校に通ったのに相当する学力の向上がある
脳はスマホに適応するのか
最後に、進化を続けてきた私たちは新しいデジタル社会にも適応するよう進化するのでしょうか。
進化の基本は、生存や繁殖にメリットになる特性が一般的になることです。
これがデジタル社会の現代にも当てはまれば進化は起こるはずです。
しかしながら、技術の進歩により人間は寿命を劇的に伸ばし、体外受精により以前より子供ができる手段が増えた現代では生物学的な進化はブレーキがかかった状態と言えます。
なぜなら新しい特性をもって産まれなくても死なないから。
では、進化が止まってしまったのかと言うとそうとも限りません。
この数十年で遺伝子技術は著しく進歩しました。
身長や髪の色、性格から免疫まであらゆる特性がどの遺伝子と関わっているかわかりつつある今、遺伝子を変化させる技術も同様に発展してきています。
遺伝子テクノロジーは将来、その人の特性を変えるために使われてしまうかもしれません。
自然に任せていた進化の過程を人間が乗っ取る日が来るのかもしれません。
読み終えた感想
振り返ると、学生時代はスマホに支配されていたような気もします。
もっとスマホと距離をおくべきだったと後悔半分、過ぎてしまったものは仕方がないと諦め半分です。
しかし、将来の子供たちとスマホの付き合い方は考え直す必要があると感じました。
禁止しないにしろ厳しい制限が必要だと思います。
その頃にはとうに対面で人と話す機会がない時代になっているかもしれませんが。
本書では他にも、SNSが若者に与える精神的影響やスマホからうけるストレスの解消法のどが述べられています。
興味のある方はぜひ読んでみてください。
気付かされることが多い一冊だと思います。
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