『ケーキの切れない非行少年たち』の紹介【本紹介】

今回は宮口幸治著『ケーキの切れない非行少年たち』を紹介します。

現代の教育に対する考えが大きく変わるきっかけになる本です。

非行少年が見ている景色

法務技官として医療少年院に収容されている非行少年と接する機会の多い著者はあることに気がつきます。

それは自分の見ている世界と非行少年の見ている世界は全く違って見えているのではないか。

それも比較的理解しやすいものの範囲ではないほどの差。

図形の模写が全くと言っていいほどできなかった少年の目には何が見えているのだろう。

そしてそんな少年に対して大勢の一員として同じ教育を受けさせて十分に理解できるのだろうか。

本書に記されている内容はこの問題を提起するところから始まります。

反省できない非行少年

著者は非行少年に共通する特徴として、

  • 認知機能の低さ
  • 感情統制の低さ
  • 融通の効かなさ
  • 不適切な自己評価
  • 対人スキルの乏しさ
  • 身体的な不器用さ

を挙げています。

見る聞くなどの認知機能が弱いと、相手の感情や言っていることをそのまま理解できず睨まれたや悪口を言われたなどの被害妄想につながるなどコミュニケーションのエラーが起こります。

伝えたいことが歪んで伝わってしまう非行少年に被害者の手記を読ませてもそこから感情の読み取りができないといった具合のため、反省して更生させる少年院ではほぼ意味をなしません。

更生する、反省する以前の問題なのです。

また、自分の感情を理解することにも乏しいため『イライラする』しか表現をしらない少年は、その感情の歯止めのかけ方も知らず暴行にはしると著者は語ります。

第3者的な立場で自己評価もできないので過度な自信家や自己肯定感の低い少年が多いのも特徴のようです。

そしてこの項目で最も印象深いのは融通が効かないという特徴。

解決策が複数ではなく1つしか思いつかい状況だと、例えばお金を手に入れる方法を考える時、働くや親に事情を話して借りるではなく盗むしか思いつかない。

1つしか解決策が思いつかないので、それが絶対だと思い込み突発的な思いつきでしか行動できなくなる。

これをしたら、後で捕まるなんて予想できないためなおさらブレーキがかからないのです。

軽度の知的障害のある人は普通の人と同じ?

上記の特徴を持ち合わせた子供たちからのSOSの発信は小学校2年生からと言われています。

つまり気づいてすぐその子達に寄り添うことができれば本人も社会で不自由なく過ごすことができ、未然に犯罪も防ぐことができるのです。

しかしながら、簡略されてしまった知能診断では取りこぼしが多いのも事実。

とりこぼしてしまうほどの軽度、しかしながら自分たちからSOSを発信している子供たちは社会的には健常とされ義務教育を終えると何の支援もないまま独り立ちさせられてしまうのです。

また、そういった人たちが犯罪に関わってしまうことも少なくないようです。

じゃあ、どうしたらいいの?に答える

ここまで読むと、もはや非行にはしってしまった少年を救う術はないのではないかと思ってしまいます。

しかしながら、著者は非行少年は周りに助けを求め、知ることに飢えていると言います。

つまりきっかけを与えれば変わっていくと、反省の意味すらわからない少年たちが心から反省する日が来ると断言するのです。

本書ではそのアプローチの仕方を詳細に説明しています。

自己への気づきが得られるようなきっかけの作り方、支援の仕方。

認知機能の矯正を行うトレーニングや教材があることもそれを市販で購入できることも記されています。

さらにその教材を学校でどう活用するかなど、軽度の知的障害のある少年たちと真摯に向き合っていることが本書からよく伝わってきます。

どの分野でも問題提起は簡単でそれをどうするかの解決策は言い切らない何となくの表現で終えるというのはよくあることですが、ここまで具体的な解決策を提起しているのは驚くべきことです。

引用に『反省させると犯罪者になります』という著書がありますが、この題名の意味も本書を読む前と後では大きく捉え方が変わったような気がします。

現代における学校教育が抱える問題を知るには良い教材だと思います。

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